マレーシアは5人に1人が糖尿病だと言う。
首都クアラルンプールで食べ歩くと、その原因が日本並みの糖質過多の食生活だとすぐに気づいた。特にごはんを食べる量は日本人以上だ。
そんな中で、高たんぱく質・高脂質が摂れる理想的な低糖質ボーンブロス料理があった。それが『バクテー(肉骨茶)』スープだ。
今回は、糖質過多の国マレーシアの食事情と『バクテー』をレポートする。
健康管理に無頓着な国民性
人口約3000万人のマレーシアは、(人口比率の多い順に)マレー系、華人系、インド系、そして先住民族で構成される多民族国家だ。
多くのマレー人やインド人は十分な教育を受けられないため、健康に関しての感心も薄い。政府による健康管理指導にも関心がなく、健康診断も受けない人が多いそうだ。
所得も低いので、安くておなかが膨れるごはんや麺等はありがたい食材だ。日本同様「ごはん+おかず」の組み合わせの料理が多く糖質過多の食事情だ。
食事をしている人に糖尿病のことを聞くと両親あるいは自分がそうだと言う。しかし、食事療法など病気と向き合うことは考えていないようだ。ある程度知識がある人も、ごはんを指さしながら「そう、これが体に悪いね!」と臆することもなく黙々と食べていた。
一方、華人系は富裕層が多く教育レベルが高いそうで、必然的に健康意識も高い。確かに富裕層が住む地域にあるショッピングモールで歩いている人達は華人系が多く太ってはいない。
しかしダイエットの意識はカロリー制限的なので、野菜中心+肉類は控えているが、糖質摂取はさほど気にしていない。さらに、欧米同様(日本もだが)に和食は太らない料理と評価しているように見受けられた。※実際は違うのだが。
食べることが何よりの娯楽
歩いていると男女問わず肥満体型の人とすれ違う。ショッピングモールで話しかけた女子学生はヒジャーブというスカーフで髪や身体のラインを隠しているが、明らかにポッチャリ系だ。
イスラム教の国なのでアルコールを飲まない代わりに嗜好品として甘いものを食べる。マレーシア在住の知人(日本人)によると、仕事中でも常に食事やおやつのことを考えている。食べることが何よりの娯楽のようだ。写真の女子学生が食べていたアイスクリームの量には驚いたが、これも大切な娯楽の時間と言うわけだ。
イスラムのお正月前には、甘いクッキーを沢山買い込んでいる人が多く、ナイトマーケット等では、チーズケーキやティラミスのようなスィーツを大量に売りに出す。どうやら、マレー人は一度に食べるスィーツの量も多いようだ。
さらに、1ヶ月の断食(ラマダン)の間は、日中は水分も取ることが出来ず、日が暮れてから朝暗い内に一日の食事をすませる・・いわゆる”糖質”ドカ食いの習慣が身についているのでは、と知人は話す。
突き詰めると、国民の多くが『糖質中毒』に陥っている!と言える。
誤った自己流の糖質制限
マレーシアでのローカーボ・ダイエット(糖質制限)の認知度は、ほぼゼロに近いのではと思う。
幸運にも、ローカーボ・ダイエットを実践している糖尿病のマレー系現地人と会食をする機会に恵まれた。
英国で学位を修得したという知的な50代半ばの細身の男性だ。
従来の糖尿病食事療法であるカロリー制限に疑問を持ち、英語で書かれたローカーボ・ダイエットのウェブサイトを見つけ学んだそうだ。
しかし、彼も誤った自己流の糖質制限を実践していた。バイキング式料理で彼が選んだ食品は牛肉の煮込み、鶏肉、蒸し野菜、そして茶碗一杯程のインディカ米ごはん!だった。
周りの人が食べるごはんの量が多いので、彼的には控えめな量であり血糖値に影響しないと考えていたようだ。
マレーシアで通常食べられる米はジャポニカ米(日本の米)よりは粘りの少ないインディカ米だ、多少なりとも血糖値にはゆるやかに上昇するのかもしれないが、量的にはかなりの糖質を摂っていることには変わりない。
キリスト教徒なので肉類は何でも食べるが、ラム肉、豚の脂肪は体に悪いと思い食べていなかったそうだ。
スタミナ補給食だった理想的な低糖質ボーンブロス
バクテーは、マレーシアがまだ英国の植民地であった頃、中国系移民の港湾労働者のスタミナ補給食として朝食で食べられていたそうだ。削ぎ落しきれなかった肉片がついた骨を利用したため、それが「肉骨」の名の由来と言われている。〈Wikipedia参照〉
18世紀半ば英国の産業革命時、スタミナ補給として砂糖を与えられた労働者とは雲泥の差がある。
豚スペアリブなどの骨付き肉を複数の漢方薬として利用される生薬などで長時間かけて煮込むので、骨から抽出されたカルシウム、マグネシウム、コラーゲン、ゼラチン、グルコサミンなども摂取できる。
漢方薬の効能も多少なりとも期待できそうだ。使用される漢方の生薬は、大茴香(ダイイウイキョウ/八角)健胃・消化増進、桂皮(ケイヒ/シナモン)整腸・健胃・解熱、丁子(クローブ)胃腸を温める、胡椒、蒜(ニンニク)などがある。
バクテーは、糖質の代わりにエネルギー源になる脂質、体をつくる”動物性”たんぱく質が摂れる理想的な低糖質スタミナ補給食とも言える。
日本ではボーンブロスはアンチエイジング料理として人気が高いが、漢方薬(これもハーブだが)を使用するバクテーを、マレーシア版低糖質ボーンブロスとしてもっと注目すべきだと思う。
悲しいかな!バクテーにもごはん
マレーシアやシンガポールの代表的な料理であるバクテーは、イスラム教徒が禁止されている豚肉を使用するので、中華系料理店や中国料理とマレー料理が融合したニュニャ料理店で食べられる。
「マレーシアで本場のバクテーを食べてみて下さい。」と、東洋医学に造詣が深く糖質制限で減量だけでなくアレルギー性鼻炎も治ってしまった山中氏のお勧め通り、独特の風味があるスープに味つけ卵を加え、ほくそ笑んだこと複数回!すっかりその美味しさにハマってしまった。
今では、骨付き肉だけでなく、牛肉、鶏肉、魚介、野菜などバクテーの食材バリエーションが広がっているそうだ。写真のバクテーは肉団子と牛肉入り。漢方薬系香りがなくライムと辛み調味料のサンバルソースを入れて食べた。コクのあるスープは逸品だった。
バクテーはボリュームもあり十分満足できる量なのだが、現地人はスープが入った器に大盛りのごはんを入れて食べていた。
この国でごはんを控える食習慣に変わるのは日本以上に難しく、肥満・糖尿病などの健康問題が解決する道のりは遠いようだ。
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