「検査の数値が結構悪いんだよね」と云いつつ、多くの人は体を壊すまで不健康な生活習慣を改善しようとはしない。あるいは薬さえ服用していれば問題ないと思っている人さえいる。糖尿病(予備軍)の人にありがちだ。
健康問題に不安はあるが、本人は目をつぶり家族も見て見ぬ振り。最初はやる気を出して取り組むが、長続きしないことも多い。
甘いもの依存症ジョンの戒め
◆ SUGAR is THE ENEMY!!!(砂糖は敵だ)
◆ IT WILL KILL YOU!! (砂糖はあなたを死に追いやる)
友人である日本在住のアメリカ人ジャーナリストのジョン・ウッド(55歳)は、若い頃から甘いもの依存症&肥満の体型だ。一方妻のカズコは夫の不健康な生活を許すのも愛情だと思っていた。そして突然ジョンが肺血栓塞栓症で倒れた。
病を通して二人が変わっていく姿を一読して頂きたい。人事ではない!あなたも同じ目に遭うかもしれないからだ。
ゆるゆるのプチ糖質制限
ジョンは身長183cm、体重125kgを超える肥満体型だ。
3年前、ジョンとカズコに肥満による健康リスクを説明し糖質制限による減量を勧めた。
【写真は糖質制限で10kg痩せたジョン。内臓脂肪はまだまだタップリ付いている】
男性であれば月5kg前後の減量は期待できる スーパー糖質制限 を実践して欲しかったが、夕食に主食(パン、ごはん、麺)を控えるだけのプチ糖質制限を選んだ。
10年前、ジョンは10歳から飲んでいたというコカ・コーラ依存症から脱却した。しかし他の甘い飲みものは止められない。相変わらず「砂糖+フレーバーシロップ(糖質)+クリーム入りのコーヒー」「砂糖大盛り2杯入りの紅茶」「毎食健康に良いとガス入りアップルジュース」というゆるゆるのプチ糖質制限だ。
液体は固形より早く吸収されるので 血糖値の乱高化(血糖値スパイク)がひんぱんに起きていたと推測する。
わずか半年で甘い誘惑に負けた
それでも半年で約10kg痩せた。痩せて喜んでいたのでプチ糖質制限を続けられるハズだったが、長続きはしなかった。
職場近くに好きなアメリカのアイスクリーム店がオープンした。すっかり夢中になってしまった。さらに悪いことに、ジョン好みのチョコレートミント・フレーバーのお菓子が日本でも販売され、毎日食べる習慣がついてしまった。
こうして、わずか半年で甘い誘惑に負け、甘いもの依存症へ逆戻りした。
健康問題をスルーする二人
なぜかジョンは「自分は強靱だから絶対に大丈夫」という健康に対する根拠のない自信があった。反面、体の不調には気づいていたようだが、はっきり指摘されるのが怖く、特にカズコに言われるのを嫌がった。健康診断も敬遠する。
子供の頃水質の悪い地域に育ったせいか水を飲むのに抵抗があるようで、カズコが水分補給をして欲しいと何度云っても聞く耳を持たない。8年前に尿道結石を患った時だけは再発防止のために水分補給を守っていたが、しばらくすると止めてしまった。
カズコは夫がまた太り始めたのを気にしながらも、幸せそうな顔をみるのがうれしいので食後にはデザートまで出していた。
水分補給は注意するが、糖質過多の食生活には目をつぶっていた。
危惧していたことが起こってしまった
2019年9月27日中夜、ジョンは、肺動脈血栓塞栓症による呼吸困難で意識を失い緊急搬送された。顔面から倒れた際にテーブルに鼻をぶつけ骨折もした。
原因は、太りすぎ、不十分な水分補給、(仕事柄)座りっぱなしの生活、糖質過多の食生活により、脚に沢山の血栓ができそれが肺に飛んだ。
倒れる一週間ほど前から夏風邪のような症状を訴えていた。最初はおなかの不調、次は息苦しさ。倒れる前日まで出勤していたが、病院へ行くことは考えなかった。
肺動脈に血栓(血液の塊)が詰まる病気。9割の血栓は脚の静脈内にでき、それが血流により心臓を経由して肺動脈まで運ばれて起こります。症状は、呼吸困難、胸痛、冷や汗、失神、どうき、咳など。
決心ができない夫に愛のムチ
倒れた!血だらけ!入院!という初体験は二人には相当応えた。今までの生活や考え方を改めることを、先ずはカズコが決心した。
カズコはすぐに行動に移した。自宅にあった甘いのみもの、糖質の多い食品はすべて処分した。あまりに大量にあったので絶句したそうだ。
60%が炭水化物(ごはん、麺、パン、甘い飲みもの、フルーツなど)の病院食を食べさせたくないので、低糖質+高タンパク質の弁当をつくり毎日病院へ届けた。
一方、ジョンは決心がつかない。自分の人生にとり大切な”甘いもの”を取り上げられたくないので、言い訳が多い。「糖質を摂らないと頭が働かないのでは」と筆者にも聞いてきた。
煮え切らないジョンに対して、大切な人を失いたくない一心で、カズコは動いた。
●「甘いものを食べてすぐ死ぬか、私と健康で長生きするか、どっちを取るの?!」という手紙を渡すと、病室から見える日没の美しい景色を眺めながら、生きていることのありがたみをジョンは痛感した。
● 山下達郎が妻竹内まりやのために書き下ろした “YOUR EYES” を聞かせた。その歌詞にジョンが泣いた。
●「Make up your mind!(決心して!)」と書いたカズコの写真を渡した。頑固だったジョンが変わり始めた。
二人で延々と話し合い、そしてジョンの心が動いた。
毎日毎日を、大切に大切に、生きる〈カズコのメールより抜粋〉
二人の生活は一変した。一人では挫折するので、二人三脚で体重80kgの健康的な体を目指す!
【冷蔵庫には戒めと生活心得の紙が貼ってある】
二人で決めた約束ごとは、これだ。
- 毎日2リットル以上の水を飲む。
- 甘いものは見ても食べない。甘くなくても糖質の多い食品は食べない。基本自宅で食べる。外食は弁当を持参する。
- アルコールや薬物の依存症から脱却する施設のように監視下体制にした。職場の周辺は甘いものが氾濫しているので、カズコが同行し職場近くで待機する。ジョンが甘いもの禁断症状が出た時は、別な食べもの・飲みもので対応する。ナッツ・チーズ・ガム・コーヒーなどが有効みたいだ。
- 糖質制限に願掛けをしているカズコもシビアに糖質制限を実践しているが、好きなカレーうどんの誘惑に負けそうになる時は、ジョンの顔を思い出すことにしている。
- 今日はどんな甘い誘惑があったか、どう対処したかなどを毎日話し合う。
【壁に”NO EMAILING AFTER 9 P.M.”の紙、30分を示すタイマー】
- パソコン、携帯は、夜9時以降は見ない。
- タイマーを携帯して30分ごとに動く。これはまだ脚にある血栓のためだ。
- ジョンは夜型人間だったが、夫婦そろって11時前には就寝。睡眠のゴールデンタイムにはしっかり寝るように努める。
まだ始まったばかり
【最も太っていた頃の44インチのジーンズはブカブカになった。今は40インチ】
退院して約1ヶ月の数値だ。
- 体重:入院時127kg⇒退院時118.6kg⇒現在115.6kg (11.4kg↓)
- 血圧:140~150/90~100と高めだったが順調に下がってきて現在125/80前後
- 心拍数:入院時105だったが現在80前後
- まだ脂肪肝は治っていない
【寄稿】”糖尿病性腎症の初期から透析期まで、糖質制限は問題ない”の腎臓内科医 塚本雅俊先生から「白人の方はインスリン分泌能力は日本人の倍あるので、血糖は上がり難い分容易に肥満します。糖質を控えて下さい」というアドバイスも頂いた。その通りで、ジョンは肥満だが糖尿病ではない。
今の所、誘惑は余りなく監視下体制は有効に働いている。
ジョンが不安に思った「糖質を食べないと頭がボーとする」ことも当然ない。入院前までアメリカ製の強力な体臭予防スプレイーを使用していたが、体臭も薄くなってきたそうだ。
入院35日は長かったが夫婦には必要な時間だったそうだ。ジョンは家族や友人に対して自己中心的な態度だったことを謝罪した。「ボクは頑固おやじでした」ポツリと日本語で云った。カズコは「これからは喧嘩しても悪いことはNO!と云います」しっかりした口調になっていた。
二人三脚の生活改善はまだ始まったばかりだ。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ことを肝に銘じ、二人で励まし合いモチベーションを持続できるかが、今後の課題になるだろう。
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