糖尿病患者が、糖質制限によりHbA1c値が下がっても、医師の理解と協力がなけれは、食後の血糖値コントロールはむずかしいというジレンマ話である。
30代後半で糖尿病を発病し25年以上患っている大木幸子さん(仮名)は、長い間カロリー制限の食事療法とインスリン注射で、食後の血糖値コントロールを行ってきた。しかし、血糖状態を知る上で重要なヘモグロビン・エイワンシー(HbA1c)値が、昨年徐々に上がってきたこと、太るといわれるインスリン注射の単位(量)を減らしたいという理由で、2015年1月から、ごはん量100g(小ぶりの茶碗1膳)を1日1、2回に分けて食べるプチ糖質制限を独自にはじめた。
実は、大木さんは、糖質制限の知識がほとんど無かった。
たまたま、カロリー制限の観点から控える食品としてごはんを選んだだけなのだ。だから、朝食には、野菜を食べた後、オリーブオイルをつけた食パンを食べるという、糖質制限からいうとNGのパンを食べている。それでも、プチ糖質制限により、HbA1c値は、2015年1月8.3%→7月6.9%まで下がった。中性脂肪も224→117まで減った。そして、HbA1cグラフを見るのが彼女の楽しみになった。
ところが、ごはんを減らして数値が下がったことに対して「いつまでそれを続けられるかね。カロリー計算もしないで、勝手にごはんだけ減らして。」と主治医に叱られたそうだ。
大木さんのジレンマは、せっかく数値が改善されても、主治医からはインスリン注射の単位を減らす指導はないため、〈薬の効き目がよすぎて〉低血糖になり目がかすむので、逆にアメをなめてしまうそうだ。これでは、ごはんを控えている意味がなくなってしまう。
ジレンマの渦中にある大木さんは、関西女性の持ち前の明るさで笑いながら、
「15年ほど前に糖尿病の合併症である脳梗塞で倒れたけど、“負けへんで~”とつらいリハビリを乗り越えて、ピアノも弾ける迄に回復した。8年ほど前には、膵臓がほとんど機能していないと医者に言われたけど、もう少し長生きしたいから、糖質を控える食事をやってみる。HbA1c値をもっと良くして先生を驚かせてみせる。」そう決意をして、早速にローソンで低糖質ブランパンを何種類か購入したそうだ。
大木さんの主治医の対応は、現在、糖尿病の食事療法としての糖質制限食が、医療関係者の間では賛否両論となっている背景から来ているものかもしれない。事実、糖尿病関連の製薬会社に勤めている知人からは「日本糖尿病学会が正式に認めてない糖質制限食はありえない。」とピシャリといわれた。
糖尿病治療の食事療法として糖質制限を取り入れている病院はまだまだ少ないため、大木さんの様に独自で糖質制限食を試みる患者は今後増えていくと思う。多くの患者がジレンマに陥らないような医療体制を望みたい。
コメント