メディアで糖質制限がとりあげられる機会が多くなる一方、誤った情報が流布しています。そこで糖質制限の考え方、その有効性、疑問点に対する回答などをまとめてみました。
※ 新南陽整形外科クリニックの花岡篤哉医師、人気のたがしゅうブログの神経内科医 田頭秀悟先生がご監修下さいました。
糖質制限とは?
糖質制限ダイエット、ローカボダイエット、ロカボ、低糖質ダイエット、炭水化物ダイエットとも呼ばれ、有名な“ライザップ”も、実は糖質制限が基本原理です。
※「低炭水化物ダイエット」を「炭水化物ダイエット」=「炭水化物(糖質)をたくさん摂って良い」と誤解している人がいます。ご注意下さい。
糖質制限の発想
糖質制限とは、食べ物のカロリーではなく糖質を制限するべきという考え方です。減量・体質改善のためのダイエットとして、また食後の高血糖を防ぐので糖尿病の食事療法として、糖質制限は非常に有効です。
現代の「糖質づけの食生活」では、3つのことが体内でひんぱんに起こっています。
- 血糖値が上がり、血糖値を下げるインスリンが分泌されます。すると「太るホルモン」でもあるインスリンにより中性脂肪は蓄積されます。高カロリー食品でも低糖質であれば、血糖値が上がらないので太りません。
- 糖質づけの食生活が続くと、インスリンを分泌するすい臓が疲弊してしまい、糖尿病になります。糖尿病になると、血液中にだぶついているブドウ糖により血管が障害されるので、さまざまな合併症を引き起こします。
- 血糖値の乱高下が起き、サイレントキラーと呼ばれる動脈硬化が進行します。動脈硬化は自覚症状がないので、ある日突然病魔が襲ってきます。
この状態に歯止めをかけるのも糖質制限です。
NG食品とOK食品
主食以外は比較的自由に食べられますので、決して悲壮感ただよう食事内容にはなりません。カロリー制限とちがって、量をしっかり食べられるので空腹のつらさはなく、無理なく長続きさせることができます。
糖質制限は万人向け
糖尿病や肥満の方だけでなく、健康だけどおなか周りが気になりだした人、健康的にスリムになりたい女性、筋肉が減り痩せ衰えたお年寄りまで、あらゆる世代、あらゆる立場の人に素敵な変化をもたらします。
以下の項目に当てはまる人は、年齢に関係なく、痩せている人でも、糖質制限による体の再生が期待できます。
- 糖尿病、境界型糖尿病の人
- 健康診断で「高血糖」「高血圧」「脂質異常(中性脂肪やコレステロールが多い)」と診断された人
- 太っている人
- いつもダルイ人
- 朝の目覚めが悪い人
- 食後に眠くなる人
- ウツ状態になる人
- ニキビ、肌荒れ、アトピーがひどい人
- 胃の調子が悪い人
- 二日酔いになりやすい人
- 冷え性の人
糖質制限の有効性
◆ 減量効果
糖質制限には優れた減量効果があります。カロリー制限のダイエットでは、空腹のつらさに耐えても1~2kgしかやせないという話はよく聞きますが、糖質制限では、普通に食べながらいつのまにか5kgやせていたといった事がよくあります。10kg以上やせる場合も珍しくなく、別人に生まれ変わったように変身する人も多いです。
糖質制限でのやせ方の特徴としては、過剰なエネルギー(糖質)を制限し、体をつくる材料(脂質・たんぱく質)をしっかり食べているので、健康的にやせていきます。
太る原因は、過剰摂取した糖質が脂肪に変換されて蓄えられることで、脂肪を摂ったからではないことをしっかり理解して下さい。
肥満が解消されると、いびきや睡眠時無呼吸症候群が自然に治るケースも多いです。よって夜はぐっすりと熟睡できるようになり朝の目覚めが快適ということになります。
◆ 日常生活の好ましい変化
糖質制限を実践した人に日常生活で良かったことをインタビューすると、共通した内容が返ってきます。その効果のメカニズムはすべて解明されたわけではありませんが、糖質制限推進派 神経内科医 田頭秀悟先生が説明して下さいました。
・食後の眠気がなくなった
糖質の多い食品を過度に摂ると血糖値が急激に上昇します。すると血糖値の上昇に伴い、覚醒ホルモンである「オレキシン」の活動が弱まり、食後の眠気が引き起こされると考えられています。
昼食に麺類、おにぎり、定食、丼物などを食べ、仕事中に眠気に襲われるのはそのためです。
・寝起きがよくなった
睡眠のリズムを整える「メラトニン」というホルモンがあります。このメラトニンの材料が、タンパク質を構成するアミノ酸の一つ「トリプトファン」です。
糖質制限ではタンパク質を積極的に摂取するので「メラトニン」が増え、睡眠リズムが整いやすくなり、寝起きがよくなると考えられます。
・疲れにくくなった
疲労という身体的ストレスがかかると交感神経が刺激され「コルチゾール」「アドレナリン」などのストレスホルモンが分泌されます。その状態が続くと体に負担がかかってしまうので、それを元の状態に復帰するのに重要な役割を果たすのが「セロトニン」というホルモンです。
前項で述べたタンパク質を構成するアミノ酸の一つ「トリプトファン」は、「セロトニン」の材料でもあります。タンパク質を積極的に摂取する糖質制限では「セロトニン合成」が有利に働くので、ストレスから早く復帰でき疲れにくくなります。
・頭痛がなくなった
頭痛の原因として大きな割合を占めるのは「片頭痛」と「緊張型頭痛」です。
「片頭痛」は、糖質を制限することで産生されるケトン体により抑制されることがわかっています。
「緊張型頭痛」は、肩こりとストレスが大きな誘因と言われています。肩こりは、糖質制限で血糖値の乱高下を起こさないことで、血流が良くなり、肩こりも徐々に改善することが期待できます。ストレスは、前項で述べたように、抗ストレス作用のあるセロトニンを合成しやすい点でも有利です。従って糖質制限を行うことでかなりの割合で頭痛が改善できます。
・冷え性が改善した
三大栄養素のうち食事誘発熱産生が最も高いのはタンパク質です(糖質で約6%、脂質で約4%、タンパク質で約30%)。従って糖質制限のように高タンパクの食事を摂ると代謝が高まり冷えが改善しやすくなります。また糖質制限で血糖値の乱高下を避けることにより血流がよくなることも、冷えが改善するメカニズムの一つです。
・集中力がついた(勉強の成績が上がった)
糖質制限をすると、主たるエネルギー源がブドウ糖からケトン体となります。ブドウ糖は瞬発力のあるエネルギーですがすぐに枯渇する弱点があります。一方、ケトン体は持久力のある長持ちエネルギー源です。従って体感的に糖質制限を行っている方が、お腹はすきにくく、仕事や勉強をするのに集中しやすくなります。
・二日酔いがなくなった。
アルコールの代謝にはビタミンB1が必要ですが、糖質の代謝にもビタミンB1が必要です。糖質を摂取しながらアルコール飲料を飲むと、糖質代謝でビタミンB1が使われてしまうので、アルコールが代謝しきれずアルコールが残りやすくなります。
一方、糖質制限をしているとその分ビタミンB1をアルコール代謝へ存分に利用することができるので、二日酔いになりにくくなります。
たんぱく質や脂質の食品をつまみ(チーズ、ナッツ、肉類など)に、適量なウイスキー、焼酎、ブランデー、ウオッカ(すべて糖質は0g)を飲む限り二日酔いになりません。翌朝すっきり目覚めたければ、お酒のシメだと称して、糖質の多いラーメン、うどん、雑炊、蕎麦などを召し上がるのは避けて下さい。ただし、二日酔いにならないからと、飲み過ぎは要注意!また、休肝日は是非もうけて欲しいものです。
このように、糖質制限を続けていると、原因不明の体調不良が改善し、頭がすっきりとして 目の前のくもりがとれたというような表現をする人も多いです。糖質制限は単にやせるための方法ではなく、体の様々な不具合を改善して健康を取り戻すための良い方法として考えてみて下さい。
内科疾患の改善
◆ 糖尿病
糖質を食べると血糖は上昇しますが、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きにより血糖が下げられます。インスリンはすい臓のごく一部の細胞からしか分泌されないホルモンで、糖質を無頓着に食べて続ければ、やがてすい臓が疲れ果てインスリンが分泌されなくなり高血糖の状態となる「糖尿病」を発症してしまいます。
通常の糖尿病治療は、食事の糖質量を考慮しないまま血糖を下げる薬や、人工的なインスリンを注射して血糖をコントロールする方法です。ところが、食べる糖質の量を減らす(糖質制限)という単純な方法で、糖尿病の血糖コントロールは可能なのです。糖尿病に対する糖質制限の効果は劇的です。薬を使用せずに正常人と同じ血液データに改善してしまう事もめずらしくはありません。
◆ 高血圧
過剰に糖質を食べるとインスリンが大量に分泌されます。インスリンは、腎臓でナトリウムや水分の再吸収を働きかけるため、循環血液量が増加して血圧が上昇してしまいます。このしくみで高血圧になっている人は糖質制限で血圧が速やかに下がります。また、減量効果による体の負担軽減も血圧を下げることにつながります。
◆ 逆流性食道炎(胸やけ、胃もたれ)
消化によいとされるごはん、麺類、パンなどの炭水化物(糖質の多い食品)は、実は1時間以上胃に残り胃酸を出し続けます。逆に、肉、魚、チーズ、豆腐などのたんぱく質は5~10分位で消化されるのです。
また、糖質を多く食べると、糖反射といって胃のぜん動が数分間いちじるしく弱くなり胃の正常な働きが妨げられます。揚げものによる胃もたれも、ごはんなどと一緒に食べるのが原因のひとつです。
◆ 脂肪肝
脂肪肝の根本要因は、脂質ではなく糖質です。
血糖が上昇するとインスリンが大量に分泌されます。その作用で血液中のブドウ糖(血糖)は細胞内に取り込まれます。ブドウ糖はまずエネルギー源と利用され、次いでグリコーゲンとして筋肉中に蓄えられます。それでも余ったブドウ糖は全て中性脂肪に変わり、脂肪細胞や肝臓に蓄えられてしまいます。
その他疾患の改善
糖質制限の効果は、内科疾患にとどまりません。いろいろな科の疾患で改善が認められています。
◆ 花粉症、アトピー性皮膚炎
糖質は炎症を促進します。その理由について、糖質による血糖上昇で糖質コルチコイド(炎症を防ぐ役割のホルモン)の分泌が抑制される事、過剰な糖質で増えた脂肪細胞が炎症性サイトカインという物質を放出するから、という理由が考えられます。炎症が抑えられれば、花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患は緩和する可能性があります。
◆ うつ病
糖質過多の食生活はうつ病を誘発します。原因のひとつは、糖質を過剰に食べると血糖が急上昇し、血糖を下げるためにインスリンが大量に分泌されます。その結果、低血糖 〈機能性低血糖〉になることがあります。この低血糖が脳に悪影響を及ぼします。
また、うつ病は、セロトニンという脳内物質の分泌不足が原因とされています。このセロトニンの合成に必要な栄養素が、糖質を燃やすために消費されてしまいます。さらに、セロトニンの材料であるアミノ酸の一つトリプトファンは、糖質過多の食生活では不足する傾向にあります。
◆ 虫歯
虫歯と歯周病の原因である歯垢(プラーク)が減ります。歯垢の細菌のエサは糖質なので、エサをストップすることで歯垢も減ります。糖質制限+プラークコントロールで、虫歯と歯周病の予防ができます。
◆ 整形外科疾患
単純に体重が減って負荷が減るという理由で、腰、膝などの体の痛みが取れます。糖化の解消によりばね指、五十肩など腱の問題が改善します。
神経の血流改善により腰部脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアなどの神経の病状が改善します。多くの整形外科疾患を薬や手術なしで改善できる可能性があります。骨粗しょう症(糖化は骨の強度も低くするので。)にも有効です。
糖質制限の疑問
糖質制限の第一人者江部康二医師をはじめ糖質制限推進派医師の回答をまとめてみました。
Q.1 糖質を摂らないと、体がだるくなったりするのでは?
人が生きていくためには、2つのエネルギーを利用します。
- 【糖質代謝】ブドウ糖(糖質)=グリコーゲンエネルギー=瞬発的エネルギー
- 【ケトン体代謝】脂質=ケトン体エネルギー=持続的エネルギー
食事などで体内に取り込まれたブドウ糖は、グリコーゲンエネルギーとして、脂質はケトン体エネルギーとして蓄えられます。その備蓄量は、ケトン体エネルギーがグリコーゲン・エネルギーよりはるかに多いのです。
そのため、もともと体は、備蓄量の多いケトン体エネルギーを日常用に、グリコーゲンエネルギーを非常用として利用するのですが、現在の糖質主体の食生活では、グリコーゲンエネルギーばかりが優先的になり、ケトン体エネルギーはほとんど利用されていません。
糖質制限+高脂質+高タンパク質の食事では、体がケトン体エネルギー(持続的エネルギー)利用に戻ります。よって、痩せるだけでなく、体も爽快に動くことができます。
体に糖質(ブドウ糖)を取り入れなくても、糖新生により体内でブドウ糖が新しくつくられるので全く心配ありません。
Q.2 糖質制限食を実施すると低血糖になるのでは?
糖質制限食では、高血糖が改善されるだけで低血糖にはなることはなく、正常な血糖値が維持されます。
血糖値を下げるのはインスリンだけですが、逆に血糖値を上げる仕組みはいくつも体内に備わっています。食事からの糖質の供給がなく血糖値が一定以上に低くなると糖新生でブドウ糖が新しくつくられます。
また、グルカゴン、エピネフリン、副腎皮質ステロイドホルモンなども分泌され血糖値が上がります。
Q.3 糖質を摂らないと脳の働きが鈍るのでは?
上記で説明した通り、糖質制限食を実行しても正常な血糖値は維持されるので、脳で使うブドウ糖(血糖)も少なくなることはありません。また、脳細胞は、筋肉などの細胞よりもブドウ糖を優先的に取り込めるので、脳は常時ブドウ糖を利用できるのです。
さらに、脳が利用できるエネルギー源は、ブドウ糖だけではありません。肝臓で脂肪酸を分解してつくるケトン体も利用しています。つまり脳はブドウ糖だけでなく、ケトン体も利用できるので、脳の働きが鈍ることはありません。
一例を挙げると、イヌイット(エスキモー)は、カリブーなどを摂取する完全脂肪食になる時でも、脳が働かず支障が出ることはありません。この状態の時には、通常ブドウ糖をエネルギー源として利用している脳細胞も、ケトン体(脂質)から50~70%のエネルギーを得ています。『ガイトン臨床生理学』より参照
Q.4 血液中のケトン体上昇やケトアシドーシスが怖いと聞くのですが?
糖質制限によるケトン体上昇と、糖尿病の悪化によるケトン体上昇は根本的にちがいます。二つの大きなちがいは、インスリンの作用欠乏の有無です。
日常生活で、心筋、骨格筋、腎臓などのさまざまな臓器で利用されるエネルギー源であるケトン体は、空腹時や断食時に活性化して上昇します。この生理的なケトン体上昇は、糖質制限食でも《ケトン体代謝》が活性化するので起こります。しかし、インスリンが作用しているので血糖コントロールが良好なため高血糖にはなっていません。
3食とも糖質を摂っている人のケトン体の値は、26~122μmol/ℓですが、例えば、長期的にスーパー糖質制限をされている江部先生の場合は、400~1200μmol/ℓと高いケトン体値ですが正常値であり、これは生理的なケトン体上昇なので安全といえます。
一方、糖尿病が悪化して、糖尿病性ケトアシドーシスになる場合は、インスリン作用欠乏による代謝異常の結果としてケトン体が上昇します。インスリンが作用していないので非常な高血糖になっています。
糖質制限によるケトン体上昇は安全なので、病理的ケトン体上昇と混同しないようにしてください。
Q.5 脂質を多く摂るのでLDLコレステロールと中性脂肪が増えて動脈硬化が進むのでは?
増えるイメージとは逆に、中性脂肪は速やかに減少しコレステロールのバランスがよくなります。
摂取した脂質は、胃やすい臓の消化酵素で分解され、グリセロールと脂肪酸になり小腸で吸収されます。そして、このグリセロールと脂肪酸は肝臓で中性脂肪やコレステロールに再合成されます。この時、肝臓は摂取した脂質に対して、中性脂肪やコレステロールの合成量を自己調整しているので、脂質を摂りすぎても中性脂肪やコレステロールが増えることはありません。中性脂肪が増える原因は、あくまで糖質を摂取によるものです。
つまり小粒子LDLコレステロールが減少していることになります。LDLコレステロールは、上がる場合も下がる場合もありますが、スーパー糖質制限食を続けると、ほとんどの人が1~2年で基準値になります。※ 閉経後の女性は総コレステロールが上がる場合があります。
Q.6 糖質制限食は高タンパクと高脂質の食事なので、すい臓に悪いのでは?
糖質制限はすい臓に悪い影響は与えません。ただし活動性すい炎や肝硬変の人には向いていません。
急性すい炎の原因となるのは、胆道疾患とアルコール多飲がほとんどです。また脂質異常症(高中性脂肪血症)などの原因でも起こりますが、糖質制限は中性脂肪が減少するので、逆にすい炎発症の予防になるといえます。
糖質制限反対派からは「糖質制限はエビデンス(科学的根拠)がない。」と言われますが、非常に多くの糖質制限実践者がその有効性を体感しています。
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